禁忌と回避(医療関係者の皆様へ):誘発試験の方法(専門医向け) [3/5]

内服負荷試験の実際

最も古くから世界的に行われてきた方法である。一部のAIAが気管支吸入負荷陰性であることが最近明かとなり、内服負荷法が再び見直されつつある。誘発発作がやや強く長引きやすい。また最低2〜3日必要となる。さらに負荷間隔が長いため、肺機能の日内変動を拾い偽陽性がでやすい。これらの欠点はあるが、最も確実な診断方法であるのはいうまでもなく、負荷試験のgold standardと称される。特に積極的にアスピリン過敏性を否定するには内服法が良い。また気管支症状に乏しいNSAID過敏(鼻や消化器症状など)をスクリーニングする場合や全身症状も同時に検討するには全身負荷しかない。表1にStevensonらによるアスピリン内服負荷法を改変した方法を示す。著者らの経験から、内服法としてはこの方法が最も安全、かつ確実と考える。第一日目は朝8〜9時に基準のFEV1を測定し、1秒率が70%以上あれば、開始する。以後30分毎にFEV1を測定し、placeboの内服で10%以上の自然低下が夕方までなければ2日目に移る。アスピリンは15mgから内服開始し、2.5(3)時間ごとに倍量に増量負荷する。一日の負荷回数は3回までとする。placebo内服日のFEV1の日内変動が10%をこえる例では、その推移を基準に判断する。ただし、placebo内服日のFEV1変動が大きい例ではアスピリン負荷日の判定が難しいため、ステロイドを投与するなどして十分に喘息症状を安定化させた後に行うほうがよい。各アスピリンは前もって乳糖に混ぜて一定量としたものを用意し、負荷はsingle blindで行う。我々の反応陽性の判定基準を表2に示す。なおAIAの多くは閾値が100mg以下である。

気管支吸入負荷試験の実際

内服法が比較的強い発作をまねきやすく、検査に時間を要することから、考案された負荷方法である。内服負荷に比し安全性にすぐれ、所要時間も短く、再現性も良好である。また所要時間が短いことは肺機能の日内変動の影響を受けにくい長所にもつながる。しかし、局所負荷の共通の欠点として、負荷臓器(気管支)以外の過敏臓器とその症状が判断できない。さらに、少数ながらAIA確診例でも気管支吸入が陰性になることがある。また吸入法の宿命として、非特異的刺激から偽陽性も数%生じるため、特異性にやや問題がある。

アスピリンを含めNSAIDは一般的に水に難溶性であり、高濃度の吸入液は作成できない。しかしスルピリン、トルメチンNa、リジン−アスピリンの3者は水溶性であることから、吸入負荷に用いられる。スルピリン吸入はスルピリン末を生理食塩水に溶解し、ミリポアフィルターを通して滅菌して用いる。メチロン注射液を生食で希釈して用いても(添加剤のベンジルアルコールの影響は無視できるため)現実には支障ない。トルメチンNaとL-アスピリンは試薬として購入し、同様に希釈して用いる。その具体的方法を表3に示す。注意すべき点は、抗原吸入と異なり、10分以内よりも、20〜30分後に症状が増悪してくるため、吸入間隔を30分以上あけることである。肺機能測定のポイントも吸入30分後は必須であるが、逆に5〜20分後は省いてもかまわない(ただし症状観察は必要である)。また吸入の非特異的刺激のため、全身負荷に比し肺機能が変動しやすいため、一秒量の一過性低下や、なだらかな(1〜3時間かけた)低下が非AIAにおいても時に観察される。このような不確実な一秒量の低下がみられた場合は判定が難しいが、そのような場合は次の吸入にうつらず、しばらく経過をみるか、同じ濃度を負荷するのがよい。

3者の比較ではスルピリン吸入が最も反応が早く、かつ肺機能低下の度合も軽く、収まりも速いので実施しやすい。しかし最高負荷濃度を10%にするとAIAの約1割は反応がでない一方で、25%にすると、AIAは全例反応するが、一部非AIAも非特異的刺激で反応が生じる。したがって、スルピリン吸入はスクリーニング法として適切でない。

トルメチン、リジン−アスピリンはともにスルピリンに比し反応がやや強く、ピークも30分以降とやや遷延化し、両者の反応は似ている。特異性、感度とも高く、スクリーニング試験としてほぼ満足できる。どちらを用いてもかまわないが、国際的には後者が一般的である。