ヘルニアについて
≪鼠径ヘルニア≫
鼠径ヘルニアは足の付け根の少し上(鼡径部)の筋肉が弱い部分から、おなかの中の臓器が脱出してくる病気で、小児期と壮年期以降に多く見られます。成人の場合はそのまま待っていても、膨らみが小さくなったり自然に治るということはなく、手術を行ってヘルニアの穴をふさぐことが必要です。現在の治療では、メッシュという人口の網でヘルニアの入口を塞ぐことが基本です。手術は、3箇所の小さな傷からおなかの中にカメラや手術器具を入れて直す腹腔鏡手術と、膨らんでいる部分を5cmくらい切開して直す鼠径法があります。
当院では成人鼠径ヘルニアに対して1993年から腹腔鏡下手術を導入し、1年間に120~140例の手術を行い、これまでに約1000病変に対して行ってきました。現在は成人鼠径ヘルニアに対して腹腔鏡手術を基本術式としていますが、前立腺や膀胱の手術をしたことがある患者さま、肺や心臓の病気があり全身麻酔をかけることが困難な患者さま、過去のおなかの手術の影響による癒着が想定される患者さまなど、腹腔鏡手術の適応とならない場合もあります。その場合は鼠径法で行います。
腹腔鏡手術
初発ヘルニアに対しての腹腔鏡手術 再発率0.31%
再発ヘルニアに対しての腹腔鏡手術 再発率1.38%
鼠径法 再発率2.4%
【入院期間】
大きな持病のない方は、腹腔鏡手術でも鼠径法どちらの術式でも4泊5日の入院が必要です。手術前日に入院し、翌日手術を行って、手術翌日から数えて3日目に退院予定です。血液をサラサラにする薬を飲んでいる患者さまや、糖尿病がある患者さまは、手術前後の入院が長くなることがあります。
入院期間,費用の概算については外来で説明があります。
【手術】
腹腔鏡手術は全身麻酔で行い、鼠径法は患者さんの状態によって全身麻酔の場合と硬膜外麻酔で行う場合があります。
手術時間
腹腔鏡 1時間前後
鼠径法 1時間前後
手術後2時間経過してから歩行を開始して水分を取ることができるようになります。
食事がとれない期間は手術当日の朝食、昼食だけで、手術当日の夕食から食事がとれます。
術後の痛みは、痛み止めの点滴や内服薬で緩和します。くしゃみをしたり笑ったりすると傷が痛むという症状はだいたい術後1週間くらいで無くなってきます。
仕事の復帰は患者さまご本人にお任せしていますが、手術直後に強く力むとメッシュがずれたりめくれたりして再発を来す危険があります。仕事や筋トレ、激しい運動は1か月くらい避けて頂いています。便秘も悪影響を及ぼす可能性があるので、内服薬で便の状態をコントロールします。車や自転車の運転は問題ないと考えています。
術後の外来通院は、退院後3週間くらいで1回、そのあとは術後3か月目、6か月目を予定します。
手術は、患者さま本人の同意だけではなく、もう1人、手術について説明を聞いて同意を頂き、手術当日に立ち会っていただける方が必要です。
≪臍ヘルニア≫
当院では1年間に10例前後の臍ヘルニア手術を行っています。臍のヘルニアでは、メッシュは使用せず、直接ヘルニアの穴を縫い閉じてくる方法が多いですが、状態によってメッシュを用いる場合もあります。
手術は、全身麻酔の場合や硬膜外麻酔の場合があります。手術時間は1時間半前後です。入院期間は、4泊5日が多いですが、術後の経過によって入院期間を延長する場合があります。
≪腹壁瘢痕ヘルニア≫
過去に受けた手術の傷からヘルニアになる病態で、患者さまの状態によって、手術で直したほうが良い場合と、そのまま経過を見たほうが良い場合があります。当科では1年間に約10例前後の腹壁瘢痕ヘルニア手術を行っています。手術は、膨らんでいるヘルニアの穴を直接縫い閉じる方法と、メッシュを入れて穴をふさぐ方法があり、メッシュを入れる場合も、腹腔鏡で行う場合と、前回の手術の傷をもう一度切って直す方法があり、前回どのような手術が行われたのか、患者さまの状態によって手術方法を検討します。手術前日に入院し、手術後7~10日目に退院予定ですが、術後の経過によって患者さまご本人と相談しながら、退院を決めています。